2012/01/26

それは落ちることではなくて届くことなんだ。


例えば1年前。

凄く風が強い日だった。
僕は凝りもせず、フェルトで出来た真っ黒なカラスみたいな帽子を被って、街へ出た。
少し歩いただけで、僕は帽子にカラスと名付けたのを後悔した。
僕のカラス帽は、名前の通り、風にまかせて飛んでいった。
名付けた事を後悔しながら追いかけてる僕をあざけ笑うように、カラス帽は勢いよく風に乗り、3人組の若者を追い抜き、昼間っから仲良くしているカップルに呪いをかけ、カラスみたいに鳴いている選挙カーを破壊して、彼女の手元に落ちた。
その瞬間、僕の悪魔のカラス帽は、平和の使者の伝書鳩になった。


ラナンキュラスの花束みたいに、白い肌と淡いピンクの唇をした彼女と、世界に何の影響も与えない小鳥のさえずりのような会話をつつましく終え、最後にきちんとお礼をした僕は、また飛ばないようにしっかりと深く帽子を被った。

「その帽子、被らない方が素敵ですよ。」

そう言って、彼女はクスクス笑い、背伸びして僕の帽子を取り上げ、風であちこちに向いている僕の髪をそっと撫でつけてくれた。

そう、

僕は恋に落ち、、いや違う、、恋に届いたんだ。


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